人手不足の解消や均一の品質で大量生産を可能にするため、生産ラインの自動化が急速に進んでいます。
自動化には産業用ロボットが大きな役割を果たしていますが、同じように工場で働くロボットに協働ロボットがあります。
協働ロボットの定義から従来の産業用ロボットと協働ロボットの違いは何か、詳しく見てみましょう。
協働ロボットとは、その名の通り「人と協力して働くロボット」を指します。英語では「Collaborative Robot(s)」となり「Cobot(コボット)」と略されることもあります。
一般的な産業用ロボットが「人の代わりに」作業するロボットであることに対し、協働ロボットは「人と一緒に」作業するロボットです。
産業用ロボットと異なる点は安全柵なしで人間と近い距離で作業を行える点です。
産業用ロボットは人間にとって難しい速さでの作業や重量・大きさのあるものを扱える利点がある一方、操作方法や運用を誤ると死亡事故を含めた労働災害を起こす危険性もあります。そのため、産業用ロボットを導入する場合は安全柵の設置や特別教育を受講した作業者のみが従事する等、安全対策を行うことが義務付けられています。
しかし出力が80W以下のものであれば産業用ロボットとは見なされないため、安全柵の設置等を行わなくても良いとされています。
では全ての協働ロボットが出力80W以下かというとそうではありません。
出力80W以上の産業用ロボットでも、国際規格ISO10218-1の下記4つの措置を講じていれば協働ロボットとして活用することができます。
1.安全適合の監視停止
2.ハンドガイド
3.速度及び間隔監視
4.動力及び力の制限
この条件のいずれか一つを満たせば出力80W以上の産業用ロボットでも安全柵の設置なく人と同じスペースで作業が可能になりました。
(2013年12月厚生労働省通達)
協働作業空間に人がいる場合はロボットは停止しなければいけません。協働空間から人が出た場合は運転再開可能です。
ハンドガイドとは協働ロボットを操作する装置を指します。ハンドガイドはロボットハンドの近くに設置し、イネーブル装置(非常停止装置や手動操作の切り替えを行うもの)を備える必要があります。
ロボットは決められた速度及びオペレーターとの間隔を保たなければいけません。
ロボットと人が衝突しても致命的な被害とならないよう動力及び力を制限しなければいけません。
つまり、人と同じスペースで作業を行うにあたり人に危害を加えないように、停止機能や力・速度の制限を設けられている産業用ロボットを協働ロボットと言います。さらに導入前にリスクアセスメントの実施が必要です。
産業用ロボットが「人の代わりに」作業するロボットであることに対し、協働ロボットは「人と一緒に」作業するロボットと述べましたが、より分かりやすくするため産業用ロボットとの違いを下記の表にまとめました。
産業用ロボットは重量のあるワークを扱ったり人間には出せない速度で作業を行うことができる代わりに、安全な運用のため柵の設置や作業者に特別教育の受講が義務付けられています。
協働ロボットはロボットメーカーの企業努力により安全技術が進化したこと、法改正を経て国際規格ISO10218-1に準じた措置を講じることで柵の設置なしでロボットを導入することができます。
また産業用ロボットの導入の際にはロボットの他にも周辺機器の用意等が必要になり、コストがかかることが懸念されますが協働ロボットは比較的安価に導入が可能です。
産業用ロボット |
協働ロボット |
|
作業内容 |
産業用ロボット単体で完結する作業 | 人とロボットが同じスペースで作業ができる |
作業場所 | 柵の設置が可能な大型ライン | 柵の設置が不要で省スペース |
特性 | パワーが強くスピードが早い | パワーが弱くスピードが遅い |
資格 | 特別教育の受講必須 | 特別教育の受講不要 |
コスト | 高価 | 比較的安価 |
1.特別教育の受講が不要
協働ロボットを導入するメリットとして挙げられるのは、産業用ロボット操作において必須となる特別教育の受講が不要なことです。
特別教育とは、危険な作業に就く場合には受講が必要になる教育です。一般的な産業用ロボットは早いスピードで動いたり重量のあるもの動かし危険な作業となるため特別教育の受講が法令で義務付けられています。しかし協働ロボットは上述したような安全規格に基づきリスクアセスメントを実施しているため、一般的な産業用ロボットでは必要な教育を受けなくても安全に作業することが可能です。
2.安全柵が不要
上記と同じ理由で一般的な産業用ロボットの導入に必要な安全柵等の設置が不要なため、省スペースでの作業が可能です。省スペースが実現することで、飲食店のキッチン等一般的な産業用ロボットの設置が難しかった業界でも自動化が可能になりました。
1.力が弱い
協働ロボットは人と同じスペースで安全に一緒に働くことができる一方で、安全を確保するために力が制限されているというデメリットがあります。重量のあるものを動かす作業には向いていないため活用が難しい場面もあります。
2.速度が遅い
同様に、人に危害を加えないようゆっくりとした速度での作業が必要になります。この点に関しては、レーザースキャナーなどの一定の範囲内に人が入ったら速度を落とす等、速度の切り替えの設定を行うことで効率化が期待できます。
では協働ロボットはどのような場面で導入されているのでしょうか。
基本的には軽量物や繰り返しの単純作業に協働ロボットが導入されます。
導入している業界は自動車製造業・半導体製造業から食品製造業まで様々な業界に取り入れられています。
それぞれの工程に合わせたロボットや先端ツールの選定が必要になります。
ここまでは協働ロボットについて解説してきました。協働ロボットは安全措置が取られていることから、作業員には特別な資格の取得等は必要ありません。一方、協働ロボットではない産業用ロボットには『産業用ロボットの教示に関する特別教育』の受講が義務付けられています。
協働ロボットとは異なり安全措置が取られていないため、誤った運用や誤作動により重大な労働災害を引き起こすリスクが大きいためです。
産業用ロボットの導入を検討されている場合は、特別教育の受講を終えた作業員の確保も念頭にロボットの導入を比較検討する必要があります。
弊社では、産業用ロボットの操作に必要な資格である『産業用ロボットの教示に関する特別教育』を実施しているロボットスクールを運営しています。その他教育機材のレンタルとして、スクールに設置しているロボットをお試しいただくことも可能です。
産業用ロボットが「人の代わりに」作業するロボットであることに対し、協働ロボットは「人と一緒に」作業するロボットです。
導入の際はロボットが持つ特性を理解し比較検討することが大切です。